
今回は、いざ売ると決めたときに最初に悩む「売り出し価格」の話です。
不動産会社に査定を頼むと、「まずは高めに出してみますか?」「早く決めるなら、このくらいです」と、2つの道を示されることがよくあります。少しでも高く売りたい気持ちと、早く片づけたい気持ち。どちらも自然な気持ちです。
この記事では、次のことを整理します。
・売り出し価格と、実際に売れた価格(成約価格)はどれくらい違うのか
・売りに出した空き家は、どのくらいの速さで動いているのか
・「高値チャレンジ」と「早期売却価格」、それぞれのメリット・デメリット
・価格の決め方で、手元に残るお金がどう変わるのか(試算)
まずは「売り出した値段」と「実際に売れた値段」の差です。
首都圏の不動産取引のデータを集めている東日本不動産流通機構(東日本レインズ)によると、2024年に首都圏で新しく売りに出された中古一戸建ての平均価格は4,305万円でした。一方、実際に成約した中古一戸建ての平均価格は3,948万円です。

差は約357万円、割合にすると約8%です。
ただし、売りに出された物件と、成約した物件は同じ物件の集まりではありません。そのため「1軒あたり8%値下げされた」という意味ではなく、「売り出し価格は、成約価格より高めに出されやすい」という目安として見てください。
もう1つ注目したいのが件数です。同じ年に売りに出された中古一戸建ては73,473件。成約は14,182件で、売り出しの約2割にあたります。売りに出せば、すぐに売れるわけではないことが分かります。
次は空き家に絞ったデータです。
国土交通省の「令和6年空き家所有者実態調査」では、2023年10月から2024年12月までの約1年2か月の間に、空き家が「空き家でなくなった」かどうかを調べています。
売却を目的にしていた空き家で、この期間に空き家でなくなったのは31.4%。残りの68.6%は、まだ空き家のままでした。賃貸を目的にした空き家でも33.1%です。

同じ調査では、今後5年ほどで売るか貸すつもりの人に「買い手や借り手が見つからなかったらどうするか」も聞いています。いちばん多かった答えは「価格や家賃を引き下げる」で45.5%でした。
つまり、売り出してもすぐには決まらず、どこかで値下げを考える。これは珍しいことではなく、多くの人が通る道だと言えます。
高値チャレンジと早期売却価格、どちらにも一長一短
ここで、2つの考え方を整理します。
・高値チャレンジ:相場より高めに売り出し、反応を見ながら調整する
・早期売却価格:相場どおりか少し下に設定し、早く決めることを優先する

高値チャレンジのよいところは、うまくいけば手取りが増えることです。買い手からの値下げ交渉に応じる「のりしろ」もできます。
一方で、売れない期間が長くなると、ポータルサイトで「ずっと載っている家」として見られやすくなります。そうなると、値下げしても反応が戻りにくくなることがあります。その間も、固定資産税や草刈り、見回りなどの維持費はかかり続けます。
早期売却価格は、早く決まりやすく、維持費や管理の手間が早く止まるのが強みです。相続した空き家の場合、売却の期限がある税金の特例(後で触れます)にも間に合いやすくなります。そのぶん、もっと高く売れたかもしれない可能性は手放すことになります。
どちらが正解かは、家の立地や状態、家族の事情によって変わります。
では、価格の決め方で手元に残るお金はどう変わるのでしょうか。相場2,000万円の空き家で試算してみます。
2,000万円としたのは、東日本レインズの2025年のデータで、首都圏の築35年を超える中古一戸建ての成約価格が2,000万円台だったためです。維持費は前回の試算(平均的な家で年約23万〜39万円)の上限、年39万円を使います。
・早く決める:相場の5%下の1,900万円、3か月で成約
・相場どおり:2,000万円、6か月で成約
・高値で成功:相場の10%上の2,200万円、9か月で成約
・高値→値下げ:高めに出したが売れず、最後は1,900万円、15か月で成約

「売れた価格 − 売れるまでの維持費」で比べると、高値で成功した場合は約2,171万円と、いちばん多く残ります。高値チャレンジがうまくいけば、たしかに効果は大きいのです。
ところが、売れ残って値下げした場合は約1,851万円。最初から早く決めた場合(約1,890万円)より、約40万円少なくなります。最終的な価格は同じ1,900万円でも、待った時間のぶんだけ維持費が積み上がるからです。
ご自身の家に当てはめるときは、次の式で考えてみてください。
※仲介手数料や税金、解体費などは含んでいません。数字はご自身の金額に置き換えてください。
高値チャレンジも、早期売却価格も、どちらも間違いではありません。大切なのは、決めないまま時間が過ぎてしまうことを避けることです。今日からできることを4つ挙げます。
・相場を知る:近くで実際に売れた価格(成約価格)を調べる。国土交通省の「不動産情報ライブラリ」で、取引価格を地図から確認できます
・期限を決める:「〇か月で売れなければ価格を見直す」と、売り出す前に家族で決めておく。専任媒介契約の期間は最長3か月なので、ひとつの区切りになります
・下限を決める:「この金額までなら下げてもよい」という線を先に決めておくと、迷いにくくなります
・特例の期限を確認する:相続した空き家なら、3,000万円特別控除の期限を確認しておく
売り出し価格は「高く売る」か「早く売る」かの二択ではなく、「いくらで始めて、いつ、どこまで見直すか」という計画です。計画があれば、高値チャレンジも安心して試せます。
次回も、空き家のこれからを考えていきます。
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■出典
・公益財団法人 東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2024年)」(2025年1月公表。数値は新建ハウジング 2025年1月の報道より)
https://www.s-housing.jp/archives/376369
・公益財団法人 東日本不動産流通機構「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2025年)」(2026年2月25日公表)
https://www.reins.or.jp/pdf/trend/rt/rt_202602.pdf
・国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査」報告書(2025年8月29日公表)
https://www.mlit.go.jp/report/press/house02_hh_000233.html
・国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000030.html
・国税庁 タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
・財務省「令和9年度税制改正要望(国土交通省)空き家の発生を抑制するための特例措置の拡充及び延長」
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2027/request/mlit/09y_mlit_k_07.pdf
※新規登録(売り出し)と成約の価格は、それぞれの平均です。同じ物件の売り出し価格と成約価格を比べたものではありません。
※「空き家でなくなった」割合は、2023年10月1日から2024年12月1日までの変化です。売却用・貸家用の空き家には、売却・賃貸以外の理由(除却や親族の居住など)で空き家でなくなったものも含みます。
※試算は、相場2,000万円、維持費年39万円、成約までの月数を仮に置いた計算です。実際の価格や期間は、立地・建物の状態・相場の動きで大きく変わります。
※3,000万円特別控除は、相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ2027年12月31日までの譲渡が対象です。1981年5月31日以前に建てられた家であること、譲渡価額が1億円以下であることなどの条件があります。2028年以降の延長は、国土交通省が税制改正で要望している段階です(2026年10月時点)。適用できるかは、税務署または税理士にご確認ください。
※専任媒介契約・専属専任媒介契約の有効期間は、宅地建物取引業法で最長3か月と定められています(更新は可能)。