
ネットで「空き家 査定」と調べると、「机上査定」「訪問査定」「無料一括査定」といった言葉がたくさん出てきます。どれを、いつ使えばいいのか、分かりにくいですよね。
この記事では、査定に関して次の3つを整理します。
・査定額は何をもとに決まるのか
・机上査定と訪問査定は何が違うのか
・空き家の場合、どちらをどう使い分けるとよいのか
査定額は、不動産会社が自由に決めているわけではありません。
宅地建物取引業法では、不動産会社が売り出す価格について意見を述べるとき、その根拠を明らかにしなければならないと定めています(第34条の2第2項)。
国土交通省の解釈では、その根拠は、公的機関がつくった「価格査定マニュアル」や、似た物件の取引事例など、合理的に説明できるものとされています。
つまり、査定額のもとになるのは主に次の3つです。
・近くで、似た条件の物件が実際にいくらで売れたか
・地価公示や路線価などの、公的な土地の価格
・その家の状態(傷み、設備、リフォームの有無、道路や境界の状況など)

もうひとつ知っておきたいのが費用です。根拠を示すのは法律上の義務なので、そのための査定にかかった費用は、依頼者に請求できないとされています。査定でお金を払う必要は、基本的にありません。
ただし、会社によって査定の進め方はかなり違います。少し古い調査ですが、中小の不動産会社に査定の方法を聞いたところ、「周辺の事例や売り出し価格を参考に自社で推定」が86.2%、「公示価格や路線価を参考に推定」が63.7%で、価格査定マニュアルを使っているのは15.9%でした(2011年度、不動産流通近代化センター調べ)。
同じ家でも、会社によって査定額に差が出るのはこのためです。
査定には大きく分けて2種類あります。
机上査定(簡易査定)は、住所・面積・築年数などの情報と、周辺の取引事例から価格を出す方法です。立ち会いはいらず、手軽に頼めます。分かるのは「そのエリアでのおおよその相場」です。
訪問査定は、担当者が現地に来て、建物の傷み、設備、日当たり、道路や境界の状況まで見たうえで価格を出す方法です。立ち会いが必要ですが、「この家なら、いくらで売り出せそうか」まで分かります。

どちらが正しい、というものではありません。目的が違う、と考えると分かりやすいと思います。
空き家の場合、この違いが特に大きくなりやすいです。
国土交通省の「令和元年空き家所有者実態調査」によると、空き家の5割超(55%)に腐朽・破損がありました。中でも、売却用や賃貸用、別荘でもない「その他」の空き家、つまり使われずに置かれている家では64%にのぼります。

屋根や柱の傷み、雨漏り、設備の古さ、家財の残り具合。こうした点は、住所と面積だけでは分かりません。
机上査定の金額は「傷みが少ない前提の相場」になりやすく、実際の家の状態とずれることがあります。
同じ調査では、売却や賃貸をするうえでの課題として、「買い手・借り手の少なさ」(42.3%)に次いで「住宅の傷み」(30.5%)が挙がっています。傷みは、価格にも売りやすさにも関わるポイントです。
「築年数が古いから、建物の価値はゼロでは?」と思う方も多いかもしれません。
国土交通省は2014年に、中古戸建ての建物評価についての指針をまとめています。その中で、住宅の状態にかかわらず、築20〜25年ほどで一律に価値がゼロとされる慣行があると指摘しました。
そのうえで指針は、建物を「基礎・躯体(骨組み)」と「内装・外装・設備」に分けて評価し、手入れや補修がされていれば価値を認める考え方を示しています。2015年には、不動産会社が使う価格査定マニュアルもこの考え方に沿って改訂されました。
つまり、きちんと手入れされてきた家は、その点を現地で見てもらうことで評価に反映されやすくなります。逆に傷みが進んでいれば、それも価格に表れます。どちらの場合も、家の状態を見てもらわないと分からない部分です。
もうひとつ大事なのは、査定額や売り出し価格が、そのまま売れる価格になるとは限らないことです。
東日本レインズの集計では、2026年7月の首都圏の中古戸建住宅の平均価格は、新たに売り出された物件が4,846万円、実際に売れた物件が3,933万円でした。成約価格は売り出し価格の約8割です。

これはそれぞれ別の物件の平均なので、同じ家がこれだけ値下がりした、という意味ではありません。それでも、「売り出し価格」と「実際に売れた価格」には差があることが分かります。
査定額が高い会社が、必ずしも良い会社とは限りません。大切なのは、金額そのものより「なぜその金額なのか」という根拠です。
ここまでをまとめると、空き家の査定は次の順番で進めると無理がありません。
・ステップ1:自分で相場を調べる
国土交通省の「不動産情報ライブラリ」では、登録なし
・無料で、地域ごとの取引価格や成約価格を地図で見られます。
・ステップ2:机上査定を2〜3社に頼む
売るかどうか決めていない段階でも大丈夫です。家族で話し合うときの「たたき台」になります。
・ステップ3:売却を考え始めたら訪問査定
傷みや残置物も含めた「この家の値段」を出してもらいます。図面や権利証など、手元の書類があれば用意しておくと話が早く進みます。
・ステップ4:金額ではなく根拠で比べる
どの取引事例を使ったか、建物の状態をどう評価したかを聞いてみてください。説明するのは不動産会社の義務です。
売る・貸す・持ち続ける、どれが正解かは家庭によって違います。
ただ、以前お伝えしたとおり、空き家は持っているだけで費用がかかり、傷みも少しずつ進みます。価格を知らないまま時間が過ぎると、判断の材料がないまま、選べる選択肢が減っていくこともあります。
査定は、売ると決めるためではなく、決めるための材料を集める手段として使うのがおすすめです。
今日できることを4つ挙げておきます。
・不動産情報ライブラリで、実家のある町の取引価格を見てみる
・家の登記事項(名義)や図面、権利証がどこにあるか確認する
・机上査定を1〜2社に頼んで、相場の目安をつかむ
・次に家を見に行ったとき、屋根・外壁・雨漏りのあとなどを写真に残しておく
価格が分かると、家族との話し合いも具体的になります。
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■出典
・宅地建物取引業法 第34条の2
・国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」第34条の2関係(媒介価額に関する意見の根拠の明示義務)
(引用:国土交通省「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会」資料4/全国宅地建物取引業協会連合会)
https://www.mlit.go.jp/common/000990587.pdf
・国土交通省「価格査定マニュアルの改訂経緯」「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針について」(参考資料3)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001883957.pdf
・国土交通省「令和元年空き家所有者実態調査 集計結果」(2020年12月16日公表)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001378475.pdf
・公益財団法人東日本不動産流通機構「月例速報 Market Watch サマリーレポート 2026年7月度」(2026年8月10日)
https://www.reins.or.jp/pdf/trend/mw/mw_202607_summary.pdf
・国土交通省「不動産情報ライブラリの概要について」
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/content/001726286.pdf
※「机上査定」「訪問査定」は法律上の用語ではなく、一般的な呼び方です。内容や進め方は不動産会社によって異なります。
※査定方法の調査(86.2%など)は、不動産流通近代化センター(現・不動産流通推進センター)による2011年度の中小不動産会社向けアンケート(回答977件、複数回答)で、現在とは状況が異なる可能性があります。
※腐朽・破損ありの割合は、「屋根の変形や柱の傾きなどが生じている」「全体的に腐朽・破損がある」「部分的に腐朽・破損がある」の合計です。調査は平成30年住宅・土地統計調査の調査区から抽出した、空き家を所有する世帯が対象です。
※売却・賃貸の課題(42.3%、30.5%)は、今後の利用意向が「賃貸」「売却」の人(n=885)への質問です。
※首都圏の価格は、東日本レインズに登録された中古戸建住宅の平均値です(首都圏=東京・埼玉・千葉・神奈川)。地方では価格水準が大きく異なります。
※査定費用を請求できないのは、価格の根拠を示すための査定についてです。建物状況調査(インスペクション)や不動産鑑定士による鑑定評価など、別のサービスは有料の場合があります。