
親が亡くなったあと、銀行の窓口で「お亡くなりになった方の、生まれてから亡くなるまでの戸籍をすべてお持ちください」と言われ、分厚い封筒を抱えて役所と銀行と法務局を行き来する。相続の手続きでは、そんな場面がよくあります。悲しんている間もなく色々な手続きを期限内に申告しなければならなくて慌ただしい思いをします。今回はその手続きと役所の往来を減らすと共に各書類発行の手数料も節約になる是非とも知っておいて欲しい「法定相続情報一覧図」を取り上げます。
同じ戸籍の束を、銀行ごと、法務局ごとに出し直す必要があります。この手間の重さが、実家の名義変更(相続登記)を後回しにする理由のひとつになってきましたが周知と共に改善されてきた印象があります。
この記事で分かること
・相続した空き家の名義が、どれくらいそのままになっているか
・法定相続情報一覧図のしくみと、使うと何が変わるか
・作り方の3ステップと、相続登記の期限
相続した空き家の約6軒に1軒は、名義がそのまま
国土交通省の「令和元年空き家所有者実態調査」によると、空き家を取得したきっかけは「相続」が54.6%で、半数を超えます。
さらに相続で取得した空き家について、名義変更や登記をしたかを見ると、「どちらもしていない」が17.8%ありました。およそ6軒に1軒です。

名義が亡くなった人のままだと、売る・貸す・解体するといった次の一歩に進めません。売るにはまず相続人の名義に変える必要があるからです。
また法務省は、所有者が分からない土地が増える大きな原因として、相続登記がされていないことを挙げています。放っておくと相続人が増え、話し合いがどんどん難しくなりやすいのです。
法定相続情報一覧図とは、亡くなった人と相続人の関係を1枚にまとめた図です。2017年5月29日に始まった「法定相続情報証明制度」で使います。
しくみはシンプルです。
・戸籍の束と、自分で作った一覧図を法務局(登記所)に出す
・登記官が戸籍と照らして内容を確認する
・認証文の付いた「一覧図の写し」を、必要な通数だけ無料で受け取る
この写しが、戸籍の束の代わりになります。相続登記だけでなく、預貯金の払い戻し、相続税の申告、年金の手続きなどにも使えます。戸籍の原本は返してもらえます。

これまでは、1セットの戸籍の束を「出す→返してもらう→次の窓口へ」と順番に回すのが一般的でした。一覧図の写しなら、複数の窓口に同時に出せます。
一覧図は法務局で5年間保管され、その間は何度でも無料で再交付を受けられます。あとから口座が見つかったときにも安心です。
なお2024年4月1日からは、相続登記の申請書に一覧図の右上にある「法定相続情報番号」を書けば、写しそのものの添付も省けるようになりました。
お金の面でも違いが出ます。戸籍の手数料は、戸籍全部事項証明書が1通450円、除籍謄本や改製原戸籍(古い様式の戸籍)が1通750円です。
たとえば、亡くなった人の戸籍が4通(現在の戸籍1通+古い戸籍3通)、相続人2人の戸籍が各1通だとすると、1セット3,600円になります。手続き先が4か所(法務局・A銀行・B銀行・証券会社)の場合で比べたのが次の図です。

・4セット取って同時に進める:14,400円
・1セットを順番に回す:3,600円(ただし1か所ずつ)
・一覧図を使う:3,600円(写しは無料で、同時に進められる)
ご自身の家に当てはめるなら、「1セットの金額 ×(手続き先の数−1)」が、一覧図で減らせる手数料の目安です。古い戸籍が多い家や、兄弟姉妹が相続人になる家ほど1セットの金額が大きくなり、差も広がります。
順番に回すと、前の窓口の返却を待つ間、次の手続きが止まってしまいます。
制度の利用は広がっています。総務省 中部管区行政評価局が名古屋・岐阜・津の3つの法務局の数字をまとめたところ、一覧図の申出件数(再交付を含む)は2020年の14,351件から2023年の25,456件へ、3年で約1.8倍になりました。同じ期間の死亡者数の伸びは約1.14〜1.15倍なので、それを大きく上回っています。

利用目的(複数選択)を見ると、最も多いのは「預貯金の払戻」で申出件数の約85%、次が「不動産登記」で約65%でした。1件あたり平均で約7通の写しが交付されています。たくさんの窓口で使われていることが分かります。
※全国の数字ではなく、東海3県の3つの法務局の集計です。
作り方は3ステップ。郵送でもできます。

STEP1 書類を集める
・亡くなった人の出生から死亡までの戸籍・除籍謄本
・亡くなった人の住民票の除票
・相続人全員の現在の戸籍
・申出をする人の本人確認書類(運転免許証のコピーなど、住所と氏名が分かるもの)
2024年3月1日からは「戸籍の広域交付」で、本籍地が遠くても最寄りの市区町村の窓口でまとめて請求できるようになりました。ただし請求できるのは本人・配偶者・父母や子などの直系の家族に限られ、窓口での請求のみ(郵送不可)です。兄弟姉妹の戸籍は対象外なので注意しましょう。
STEP2 一覧図を作る
A4の白い紙に、亡くなった人と相続人を線で結んだ図を書きます。法務局のホームページに様式と記載例があり、パソコンでも手書きでも作れます。
相続税の申告にも使う可能性があるなら、相続人を並べるだけの「列挙形式」ではなく「図形式」にし、続柄は「子」ではなく「長男」「養子」のように具体的に書いておくと安心です。
STEP3 法務局に申出をする
申出書に記入し、STEP1・2の書類と一緒に提出します。申出できるのは、次のどれかを管轄する法務局です。
・亡くなった人の本籍地
・亡くなった人の最後の住所地
・申出をする人の住所地
・亡くなった人名義の不動産の所在地
窓口だけでなく郵送でも申出でき、写しも郵送で受け取れます(返信用封筒と切手を同封)。その場ですぐ交付されるわけではないので、日程には余裕を持ちましょう。手続きは、相続人の親族や、司法書士・行政書士などの専門家に代わりに頼むこともできます。
2024年4月1日から、相続登記は義務になりました。相続で不動産を取得したと知った日から3年以内に登記する必要があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料が科されることがあります。

見落としやすいのは、2024年4月より前の相続も対象になる点です。まだ登記していない場合は、2027年3月31日までに相続登記をする必要があります。この記事の公開時点(2026年10月)から数えると、残りは約5か月です。
また2026年2月2日からは「所有不動産記録証明制度」が始まり、亡くなった人名義の不動産を法務局で一覧にして証明してもらえるようになりました。「実家以外に、山林や田畑の名義もあるかもしれない」という家では、登記漏れを防ぐのに役立ちます。
遺産分割の話し合いがまとまらないときは、自分が相続人であることを法務局に申し出る「相続人申告登記」で、ひとまず義務を果たす方法もあります。
まずは「戸籍集め」と「一覧図」から
空き家をどうするかは、住む・貸す・売る・解体するなど、家庭によって正解が違います。ただ、どの道を選ぶにしても、名義が亡くなった人のままでは前に進めません。決めないまま時間が過ぎると、維持費がかかり続けるうえに、相続人が増えて話し合いも難しくなりやすくなります。
今日できることは、次の4つです。
・実家の登記の名義が誰になっているかを確認する(法務局で登記事項証明書を取れます)
・手続きが必要な窓口(法務局、銀行、証券会社など)を書き出す。2か所以上なら一覧図の出番です
・亡くなった人の戸籍を集め始める。直系の家族なら最寄りの役所でまとめて請求できます
・2024年4月より前の相続で未登記なら、2027年3月31日をカレンダーに書き込む
名義がそろえば、売るか活かすかを落ち着いて考えられるようになります。最初の一歩として、一覧図づくりから始めてみてはいかがでしょうか。
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■出典
・法務局「法定相続情報証明制度」について(2024年4月1日更新)
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000013.html
・法務局「法定相続情報番号の提供による相続登記等における法定相続情報一覧図の写しの添付省略について」(2024年4月1日更新)
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_00025.html
・法務局リーフレット「法定相続情報証明制度の手続の3STEP」(令和6年4月1日改訂)
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001394035.pdf
・法務省民事局「法定相続情報証明制度について」(平成30年4月1日改訂)
https://www.moj.go.jp/content/001265921.pdf
・国土交通省「令和元年空き家所有者実態調査 集計結果」(2020年12月16日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001378475.pdf
・総務省 中部管区行政評価局「法定相続情報証明制度の周知に関する情報収集結果」(令和7年3月)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000998346.pdf
・法務省「相続登記の申請義務化」特設ページ
https://www.moj.go.jp/MINJI/souzokutouki-gimuka/index.html
・法務省民事局「戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00082.html
・国税庁「相続税の申告書の添付書類の範囲が広がりました」(平成30年4月1日以後に提出する申告書から適用)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku/shikata-sozoku2017/pdf/h30kaisei.pdf
・法務局(新潟地方法務局)「所有不動産記録証明制度について」
https://houmukyoku.moj.go.jp/niigata/page000001_00503.html
※「相続で取得した空き家」の割合は、令和元年空き家所有者実態調査(平成30年住宅・土地統計調査で空き家を所有すると回答した世帯が対象、有効回答5,791)の集計です。
※利用件数は名古屋法務局・岐阜地方法務局・津地方法務局の管内の数値で、全国の数値ではありません。申出件数・交付通数には再交付を含みます。
※手数料の比較は、本文に書いた前提による試算です。必要な戸籍の通数や手数料は家庭や自治体によって異なります。住民票の除票などの費用は含みません。
※一覧図の写しを受け付けるかどうか、ほかに必要な書類(遺産分割協議書、印鑑証明書など)は提出先によって異なります。手続き前に各窓口に確認してください。一覧図は相続人を証明するもので、遺産の分け方を証明するものではありません。
※亡くなった人や相続人が日本国籍でないなど、戸籍がない場合はこの制度を利用できません。
※相続登記の期限や「正当な理由」の判断、相続人申告登記の詳細は、最寄りの法務局や司法書士にご相談ください。
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