
今回は家を「自分で手を入れて使う・貸す」と考えたときの話です。
実家を相続して、「業者に頼むと高いから、できるところは自分で直したい」と考える方は多いと思います。壁紙を張り替えて、床をきれいにして、照明を付け替えて…。週末に少しずつ手を入れるのは、楽しみにもなります。
ただ、住宅の工事には「資格がないとやってはいけないもの」や「着工前に手続きが必要なもの」があります。しかも空き家は、古くて傷んでいることが多い家です。
この記事では
・空き家はどのくらい古く、傷んでいるのか
・自分でできる作業と、プロに任せるべき工事の境界線
・知らずに始めると困る「3つの落とし穴」
をまとめます。
国土交通省の「令和6年空き家所有者実態調査」によると、空き家の約6割は相続で取得したものです。その相続した空き家を建築時期で見ると、1980年以前の建物が合計73.2%を占めます。
1981年6月以降に建築確認を受けた建物から、いわゆる「新耐震基準」が適用されています。つまり、相続空き家の多くは、それより前の基準で建てられた家ということになります。
傷みも目立ちます。同じ調査では、腐朽・破損があると答えた割合が合計71.8%。内訳は「部分的な腐朽・破損」が47.1%、「構造上の不具合あり」が21.2%、「全体的な腐朽・破損」が3.5%です。

ポイントは「構造上の不具合あり」が約5軒に1軒あることです。柱や土台、屋根など骨組みの問題は、壁紙を張り替えても直りません。DIYを考える前に、まず「どこが傷んでいるか」を知ることが大切です。
自分でできるかどうかは、ざっくり言うと「表面を整える作業か」「壁の中の配線・配管や骨組みに触れる工事か」で分かれます。

【自分でできる作業の例】
・壁紙、ふすま、障子の張り替え
・室内の塗装、クッションフロアを敷く
・照明器具を、天井にある既存の引掛シーリング(照明を差し込む金具)に取り付ける
・蛇口のパッキンやシャワーヘッドの交換
・掃除、片付け、棚や網戸の取り付け
【プロに任せる工事の例】
・壁のコンセントやスイッチの交換、配線、ブレーカー
→電気工事士法で、電気工事士の資格がないと作業できないと定められています。経済産業省も、埋込型コンセントや壁スイッチ、引掛シーリング本体の交換・取付は電気工事店に依頼するよう呼びかけています。
・給水管の改造や修繕
→水道法にもとづき、水道事業者が指定した「指定給水装置工事事業者」が行います。給水管を切って器具を付けることも修繕に当たります。
・排水設備の新設や改造
→多くの自治体で、条例により指定工事店が行うこととされています。
・ガス機器の接続やガス管の工事
→法令で有資格者による設置が求められる機器があります。ガス会社や販売店に相談しましょう。
・柱や梁、屋根などの大きな改修、耐震補強、雨漏りの根本修理
「コンセントの交換くらいなら」と思いがちですが、電気の作業は感電や漏電火災につながります。資格の有無は、安全のための線引きでもあります。
落とし穴① 2025年4月から「大規模なリフォーム」に建築確認
2025年4月に建築基準法が改正され、木造2階建てなどの戸建てで行う「大規模なリフォーム」は、着工前に建築確認の手続きが必要になりました。
ここでいう大規模なリフォームとは、主要構造部(壁・柱・床・はり・屋根・階段)の1種以上について、過半を改修するような工事です。過半かどうかは、主要構造部ごとに判断されます。仕上げ材だけを替えるのか、骨組みや下地まで手を入れるのかで扱いが変わることがあるため、国土交通省は事例集を公表しています。
一方、キッチン・トイレ・浴室などの水回りだけのリフォームや、手すり・スロープの設置は、これまでどおり手続き不要です。

「古い家だから思い切って自分で全部やり直そう」という計画ほど、この手続きにかかりやすくなります。判断に迷うときは、自治体の建築指導課や建築士に確認しましょう。
落とし穴② 石綿(アスベスト)は、自分で施工しても調査が必要
石綿は2006年9月から使用などが禁止されていますが、それより前に着工した建物には使われている可能性が高いとされています。
解体やリフォームで建材を壊すと、石綿の粉じんが飛ぶおそれがあります。そのため、建築時期や規模に関係なく、解体・改修工事の前には石綿の有無を調べる「事前調査」が法律で義務づけられています。この調査は、元請業者か、自分で工事をする「自主施工者」が行うこととされています。
業者に頼まず自分で壁を壊す場合でも、調査の義務はなくなりません。古い家で壁や天井、床材を壊したり削ったりする作業は、手を付ける前に自治体の環境担当窓口へ相談するのが安心です。
落とし穴③ 脚立・はしごからの転落は、入院が約半数
もう一つは、けがのリスクです。国民生活センターの発表では、医療機関から寄せられた大人の脚立・はしごの転落事故433件のうち、約半数の206件で入院が必要でした。死亡事故も3件あり、半数以上の236件は60〜70歳代でした。
屋根の上や、雨どい・外壁の高い場所の作業は、慣れていても危険です。空き家の片付けやDIYは親世代と一緒に行うことも多いので、高所の作業は無理をせず、プロに任せる選択肢を持っておきましょう。
ここまで読むと、「結局、ほとんどプロに頼むことになるのでは」と感じるかもしれません。ですが、そもそも空き家を「全部直してから使う」必要があるとは限りません。

・仕上げだけDIY:表面の作業は自分で、配線・配管・構造だけプロに頼む
・診断してから考える:インスペクション(建物状況調査)や耐震診断で、傷みの程度を先に確かめる
・直さずに貸す:国土交通省が契約書式例を示している「DIY型賃貸借」なら、借りる人が自分の費用で手を入れる形で貸し出せます
・直さずに売る:リフォームをせず、現状のまま売る方法もあります
どれが正解かは、家の状態や立地、ご家族の事情によって変わります。ただ、前回の記事で見たとおり、空き家は持っているだけで毎年費用がかかります。「いつかDIYで直そう」と決めないまま時間が過ぎると、そのあいだも維持費と傷みは進みます。
・家の建築年を、登記事項証明書や固定資産税の書類で確認する
・雨漏り、床の沈み、柱や土台の傷みなど、骨組みにかかわる不具合がないか見ておく
・やりたい作業を「表面」と「壁の中・骨組み」に分けて書き出す
・直すか、貸すか、売るか迷ったら、リフォーム前に査定や専門家への相談で選択肢を比べる
DIYは、空き家と向き合ういいきっかけになります。できることは自分で楽しみながら、資格や手続きが必要な工事はプロに任せる。その線引きを知っておくことが、安全で、遠回りしない第一歩です。
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■出典
・国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査 結果のポイント」(2025年8月29日公表)
https://www.mlit.go.jp/report/press/house02_hh_000233.html
・経済産業省「電気工事士法について」「電気工事士等資格が不要な『軽微な工事』とは」
https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/detail/koji.html
・経済産業省 産業保安グループ電力安全課「無資格電気工事は大変危険です!」(三重県掲載資料)
https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/001073232.pdf
・神奈川県「神奈川県営水道の指定給水装置工事事業者一覧」(水道法第16条の2)
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/yn3/cnt/f360409/jigyoushaitiran20210803.html
・経済産業省「ガス消費機器設置工事監督者」
https://www.meti.go.jp/information/license/c_text04.html
・国土交通省「リフォームにおける建築確認要否の解説事例集(木造一戸建て住宅)」
https://www.mlit.go.jp/common/001853472.pdf
・国土交通省「建築基準法改正 建築確認」(2025年3月版)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/002024419.pdf
・国土交通省掲載「解体・改修工事を発注する皆さまへ」
https://www.mlit.go.jp/common/830006112.pdf
・箕面市「石綿(アスベスト)に関する届出」
https://www.city.minoh.lg.jp/kankyou/asubesuto.html
・国民生活センター「思わぬ大けがに!高齢者の脚立・はしごからの転落」(2019年3月28日公表)
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20190328_2.html
・国土交通省「DIY型賃貸借に関する契約書式例とガイドブックについて」(2016年4月)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000046.html
※建築時期・腐朽破損の割合は、令和6年空き家所有者実態調査のうち「相続した空き家」についての集計です。腐朽・破損の内訳の合計は100%(あり計71.8%+なし28.2%)です。
※建築確認が必要になる「大規模なリフォーム」は、2階建ての木造戸建てや、延べ面積200㎡を超える木造平屋などが対象で、2025年4月以降に着工する工事に適用されます。木造平屋で延べ面積200㎡以下の場合は対象外です。個別の要否は、自治体の建築指導担当課や建築士にご確認ください。
※電気工事の資格が不要な「軽微な工事」は、電気工事士法施行令で限定的に定められています。判断に迷う作業は、電気工事店や各地域の産業保安監督部にご相談ください。
※給水装置・排水設備の工事の扱いや、自分で修理できる範囲は、水道事業者・自治体によって案内が異なります。お住まいの水道局にご確認ください。
※石綿の事前調査の方法や報告の要否は、工事の内容・規模によって異なります。都道府県・市の環境担当窓口にご相談ください。