
維持費の負担が気になり始めたころ、ポストに「あなたの空き家、高く買います」というチラシが入る。突然、知らない不動産業者が訪ねてくる。そんな経験はありませんか。
もちろん、まじめに買い取りをしている会社もたくさんあります。ただ、全国の消費生活センターには、強引な勧誘で家を安く売ってしまった、解約しようとしたら高額な違約金を求められた、という相談が寄せられています。
この記事では、国民生活センターなどの公的な資料をもとに、
・どんな勧誘トラブルが起きているのか
・なぜ「その場で契約」が危ないのか
・声をかけられたとき、何を確かめればいいのか
をまとめました。
※空き家だけに限った全国の統計は見当たらないため、「自宅の売却」「土地の買い取り」に関する公的データを使っています。手口は空き家でも同じです。
国民生活センターによると、「住宅のリースバック」に関する相談が増えています。リースバックとは、家を業者に売って、そのまま家賃を払って住み続ける契約のことです。
相談件数は、2019年度の24件から、2024年度は239件。5年で約10倍です。2024年度は、契約した人の約7割が70歳以上でした。
相談では、何時間も勧誘され続けた、断ってもしつこく売るよう迫られた、といった「勧誘のしかた」に問題がある例が目立つそうです。

2021年の発表でも、60歳以上の人が自宅を売るトラブルについて、介護の業者だと思ってドアを開けたら不動産業者で、朝10時から夜9時半まで居座られた、という事例が紹介されています。
また、登記の情報を見たとして、売却を勧めるはがきが届いたという相談もあります。不動産の登記は誰でも見ることができるため、売るつもりのない持ち主にも勧誘が届くことがあると、国民生活センターは説明しています。
相続した空き家も、登記を見れば持ち主が分かります。「うちは住んでいないから関係ない」とは言い切れません。
「高く買います」という言葉そのものが入り口になる手口もあります。代表的なのが「原野商法の二次被害」です。
昔、値上がりすると言われて買った山林や原野。売れないまま持っている人や、それを相続した人に「その土地を高く買い取ります」と持ちかけ、実際には別の土地を買わせたり、調査費・整地費などの名目でお金を払わせたりするものです。
政府広報オンラインによると、相談件数はピークの2017年度(1,699件)から減ったものの、2024年度も258件ありました。しかも1件あたりの平均支払額は、2023年度の約110万円から、2024年度は約258万円に増えています。

契約した人の約9割は60歳代以上です。また、親から相続した土地について、子ども世代が狙われたケースもあるとされています。
「子どもに負担を残したくない」「元気なうちに片付けたい」。そんな気持ちにつけ込まれやすい点は、空き家の悩みとよく似ています。
訪問販売で物を買ったときなどは、一定期間なら無条件で契約をやめられる「クーリング・オフ」があります。しかし、国民生活センターによると、個人が持っている家を不動産業者に売る契約には、クーリング・オフは使えません。
契約が成立したあとにやめるには、受け取った手付金の倍額を払う「手付倍返し」が必要になります。その期間を過ぎると、多くの場合、契約書に書かれた違約金が必要です。家の取引は金額が大きいため、違約金も高額になりがちです。
国民生活センターが紹介している相談事例を、表にまとめました。

・家に上げて約2時間で、築40年のマンションを2,400万円で売る契約に。翌日キャンセルを伝えると、約900万円を求められた
・「玄関で10分だけ」と言われて応じたら、部屋に入られ執拗に勧誘された。解約には違約金600万円と言われた
・認知症の父が、相場とかけ離れた400万円で戸建てを売っていた
どの例も、本人は「あとでやめられる」と思っていたり、内容をよく分からないまま署名していたりします。「その場でサインしない」ことが、いちばんの防御です。
不動産業者の勧誘には、宅地建物取引業法でルールがあります。たとえば次のような勧誘は禁止されています。
・会社名、担当者の氏名、勧誘の目的を先に告げずに勧誘する
・「売りません」「結構です」と断った後も勧誘を続ける(同じ会社の別の担当者が来るのも不可)
・迷惑な時間に電話や訪問をする(一般的には午後9時〜午前8時が目安)
・深夜や長時間の勧誘で困らせる
・威圧して契約させる、解約を妨げる
つまり、はっきり断ることには意味があります。「今は考えていません」ではなく、「売りません。今後の勧誘もやめてください」と伝えましょう。

チラシの「高く買います」「〇〇万円で売れます」も、数字だけで判断しないことが大切です。不動産会社が売る価格について意見を言うときは、その根拠を示さなければならないと法律で決まっています。近くの取引事例など、根拠を説明してもらいましょう。説明できない数字は、うのみにしないほうが安心です。
会社が宅地建物取引業の免許を持っているか、過去に行政処分を受けていないかは、国土交通省の検索サイトで調べられます。ただし、免許があるから安心とは限りません。原野商法の二次被害でも、免許を持つ業者からの勧誘例が報告されています。
空き家を売るか、貸すか、しばらく持っておくか。どれが正解かは、家庭によって違います。
ただ、前回お伝えしたとおり、空き家は持っているだけで毎年お金がかかります。そして、方針が決まっていない家ほど、「高く買います」という声に気持ちが揺れやすくなります。
今日できることを挙げておきます。
・突然の訪問や電話には、その場で答えず「売りません。勧誘はやめてください」とはっきり断る
・親が一人暮らしなら、こうした勧誘があることを話しておき、署名する前に家族に連絡するよう決めておく
・売る場合は、複数の不動産会社に査定を頼み、価格の根拠を聞いて比べる
・不安なとき、契約してしまったときは、すぐに消費者ホットライン「188(いやや)」へ相談する
「声をかけられてから考える」のではなく、「自分たちのタイミングで考える」。それが、空き家を守ることにもつながります。
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■出典
・独立行政法人国民生活センター「強引に勧められる住宅のリースバック契約にご注意!-本当に『そのまま“ずっと”住み続けられる』契約ですか?-」(2025年5月21日公表)
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20250521_1.html
・独立行政法人国民生活センター「高齢者の自宅の売却トラブルに注意-自宅の売却契約はクーリング・オフできません!-」(2021年6月24日公表)
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20210624_1.html
・政府広報オンライン「『原野商法』再燃!『土地を買い取ります』などの勧誘に要注意」(国民生活センター提供資料)
https://www.gov-online.go.jp/article/201806/entry-10540.html
・大阪府「宅地建物取引業法施行規則の一部が改正され、『禁止される勧誘行為』が明文化されました」
https://www.pref.osaka.lg.jp/o130200/kenshin/akushitsukanyu/kisokukaisei.html
・国土交通省「価格査定マニュアルの改訂経緯」(宅地建物取引業法 第34条の2第2項)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001883957.pdf
・国土交通省 建設業者・宅建業者等企業情報検索システム
https://etsuran2.mlit.go.jp/TAKKEN/takkenKensaku.do?outPutKbn=1
・国土交通省 ネガティブ情報等検索サイト
https://www.mlit.go.jp/nega-inf/
※相談件数は、PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に登録された相談の件数で、消費生活センター等からの経由相談は含みません。リースバックは2025年3月31日、原野商法の二次被害は2025年2月28日までの登録分です。被害の件数そのものではありません。
※「約7割が70歳以上」は、2024年度のリースバック相談のうち年代が分かる220件の集計です。
※クーリング・オフが使えないのは、消費者が自分の家を不動産業者に売る場合です。個別の契約で解除できるかどうかは、契約内容によって変わります。困ったときは、早めに消費生活センターや弁護士にご相談ください。
※禁止される勧誘行為は、宅地建物取引業法 第47条の2、同法施行規則 第16条の12によります。「迷惑な時間」は相手の生活に応じて個別に判断され、午後9時〜午前8時は一般的な目安です。