
家を「直して使う」としたらどうでしょうか。
実家に帰ったとき、冬の廊下や脱衣所が外と変わらないほど寒く感じた経験がある方も多いと思います。古い家の多くは、そもそも断熱材がほとんど入っていません。
この記事では、次の4つの部分を整理します。
・日本の家はどのくらい「寒い家」なのか
・断熱リノベで冷暖房費はいくら変わり、何年で元が取れるのか
・お金以外の効果(健康・安全)はどのくらいあるのか
・空き家の場合、どんなときに断熱リノベが「割に合う」のか
国土交通省の推計(2019年度)では、日本の住宅約5,000万戸のうち、今の省エネ基準(断熱等級4)を満たす家は13%しかありません。
・無断熱:29%
・等級2程度(1980年の基準):36%
・等級3程度(1992年の基準):22%
・等級4以上(今の基準):13%
窓も同じです。2023年の住宅・土地統計調査では、二重サッシや複層ガラス(2枚以上のガラス)の窓が1つもない家が67%ありました。
※断熱等級=家の断熱性能を1〜7で表した国の指標。数字が大きいほど暖かい家です。2025年4月からは、新築住宅に等級4以上が義務づけられています。
築年数の古い空き家ほど、無断熱や単板ガラス(1枚ガラス)の側にあることが多いと考えられます。

断熱の差で、冷暖房費は年9万円以上変わる
断熱の違いはどれくらいお金に表れるのでしょうか。
広島県が公開しているシミュレーション(戸建て・4人家族・延床120㎡)では、広島市の年間冷暖房費は次のとおりです。
・等級1(無断熱):約22.8万円
・等級4(今の基準):約13.5万円
・等級6:約6.7万円
無断熱の家を等級4にするだけで、年約9.3万円(約41%)の差になります。冬が寒い東広島市では、同じ比較で年約18.3万円の差でした。寒い地域ほど、断熱の効果は大きく出やすいといえます。
実際の改修例もあります。国土交通省の実証事業で、昭和51年築の木造住宅の1階ほぼ全体を等級4相当に直した例では、冬(1〜2月)の電気代が約29%下がり、暖房している部屋の平均室温は15.7℃から21.0℃に上がりました。

ここが一番大事なところです。断熱リノベは、光熱費の節約だけで元を取ろうとすると時間がかかります。
日本建築学会の論文(伊香賀俊治氏ほか、2011年)では、断熱工事に100万円かけた場合の回収年数を次のように試算しています。
・光熱費の削減だけ:約29年
・本人の健康維持の効果を加えると:約16年
・健康保険の負担が減る効果も加えると:約11年
工事費の目安も見ておきましょう。
・家全体を等級3から等級4に上げる場合:約231万円(木造・延床120㎡、国土交通省資料)
・1階ほぼ全体を等級4相当にした実例:250万円(国土交通省の実証事業)
・2階建ての1階だけを直す「部分断熱」:全体を直す場合の1/3〜1/2に抑えられる場合もある
回収年数は「自己負担額 ÷ 年間の光熱費の削減額」でざっくり計算できます。たとえば自己負担100万円で年9.3万円下がるなら、約11年です。ご自身の見積もりと光熱費に置き換えて計算してみてください。

お金以外の効果:浴槽での死亡は交通事故の3倍以上
回収年数が「健康」を入れると大きく縮むのには理由があります。
消費者庁によると、2024年に65歳以上で「浴槽での溺死など」により亡くなった方は7,363人。同じ年齢層の交通事故の死亡者数(2,103人)の3倍以上です。こうした事故は11月〜4月の寒い時期に多く起きています。
暖かい居間から寒い脱衣所や浴室へ移ると、血圧が大きく変わります(ヒートショック)。国土交通省が支援する全国調査でも、部屋どうしの温度差が大きく、床近くが寒い家ほど、住む人の血圧が高い傾向が確認されています。
もちろん、断熱すれば事故がなくなるわけではありません。ただ、親が住む家、これから自分が住む家であれば、「お金」だけで判断しないほうがよい理由になります。

元が取れるかは「だれが住むか」で決まる
ここまでは「住んでいる家」の話でした。空き家の場合は、まず使い道を考える必要があります。断熱の効果を受け取るのは、その家に住む人だからです。
・住む:光熱費・健康・快適さを自分で受け取れます。よく使う部屋や浴室まわりから、部分的に直す方法もあります。
・貸す:光熱費が下がるのは入居者です。家賃や入居の決まりやすさで回収できるかが鍵になります。
・売る:断熱工事の分が売値にどれだけ上乗せされるかは、物件や地域しだいで、はっきりしたデータは見当たりません。大きな工事の前に、まず「今のまま」の査定額を知っておくと判断しやすくなります。
・決めない:だれも効果を受け取らないまま、維持費(前回の試算で年約23万〜39万円)だけがかかり続けます。
どれが正解かは、家族の事情や家の状態によって違います。ただ、「いつか直そう」「いつか売ろう」と決めずにいる間も、費用は積み上がっていきます。
なお、2026年は国の補助があります。窓の断熱を対象にした「先進的窓リノベ2026事業」は1戸あたり最大100万円で、たとえば性能の高い内窓(大きいサイズ)なら1か所8.9万円が出ます。交付申請の予約は遅くとも11月16日まで、申請は遅くとも12月31日まで(予算上限に達した時点で終了)です。

まずは「使い道の仮決め」から
今日からできることを4つ挙げます。
・家の建築年と、窓が1枚ガラスかどうかを確認する
・「住む・貸す・売る」を家族で一度、仮に決めてみる
・直すなら、補助金の登録事業者に早めに見積もりと補助額を相談する(予約は11月16日まで)
・売る可能性があるなら、工事の前に「今のまま」の査定額を確認する
断熱リノベは、住む人がいてはじめて元が取れる投資です。だからこそ、工事の前に「この家をだれが使うのか」を決めることが、いちばんの節約になります。
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■出典
・国土交通省「住宅ストック(約5,000万戸)の断熱性能」推計(2019年度)
https://ibecs.or.jp/sdgsforum/doc/sem_59th_document_260123.pdf(国交省 社会資本整備審議会資料の引用)
・環境省「断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業」資料(窓の割合:総務省「令和5年住宅・土地統計調査」)
https://www.env.go.jp/content/000279196.pdf
・広島県「断熱リフォームで冷暖房費がお得に!」
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/680216.pdf
・国土交通省「部分断熱改修のすすめ」(2024年6月、部分断熱等実証委員会)
https://www.mlit.go.jp/common/001751906.pdf
・伊香賀俊治ほか「健康維持がもたらす間接的便益(NEB)を考慮した住宅断熱の投資評価」日本建築学会環境系論文集 Vol.76 No.666(2011年8月)
https://cn.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/jutaku/shiryo/fuzoku/juseishin/juseishin7.files/2021083108sanko.pdf(横浜市 住宅政策審議会 参考資料)
・国土交通省資料「住宅の省エネ改修に要する費用」(内閣府 規制改革推進会議 2021年2月9日 資料に引用)
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20210209/210209energy01.pdf
・消費者庁「年末年始、高齢者の事故に注意しましょう!」(2025年12月23日)
https://www.city.hakodate.hokkaido.jp/docs/2025122500076/file_contents/file_202512254155325_1.pdf(函館市掲載)
・国土交通省「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する調査の第3回中間報告」
https://www.mlit.go.jp/common/001270010.pdf
・環境省「先進的窓リノベ2026事業」公式サイト(2026年10月28日確認)
https://window-renovation2026.env.go.jp/
※住宅ストックの割合は国土交通省の推計値です。
※冷暖房費は広島県のシミュレーション値で、実際の費用を保証するものではありません。地域・家族構成・暮らし方で変わります。
※回収年数(29年・16年・11年)は、断熱工事費100万円を前提にした研究上の試算です。「自己負担100万円で約11年」は、広島市の等級1→4の差(年約9.3万円)を当てはめた本記事の試算です。
※国交省の実証例の電気代の削減は1〜2月の平均で比べたもので、暮らし方によっては削減効果が出ない場合もあると示されています。
※補助の内容・期限は2026年10月28日時点の公式サイトの情報です。2026年10月27日時点の予算に対する申請額は32%でした。工事は2025年11月28日以降の着手で、2026年12月31日までに完了するものが対象です。申請は登録事業者(窓リノベ事業者)が行い、合計5万円以上から申請できます。最新情報は公式サイトや登録事業者でご確認ください。このほか「みらいエコ住宅2026事業」(断熱改修等、1戸あたり上限40万〜100万円)や、自治体の上乗せ補助がある場合もあります。
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