
「実家はまだ売らなくていいか。そのうち考えよう」
親が施設に入ったり、亡くなったりしたあと、そう思って家をそのままにしているご家庭は多いと思います。
今回は少し視野を広げて、日本の不動産市場がこれからどう動きそうかを、公的なデータで見ていきます。この記事で分かるのは次の4つです。
・空き家率は今どこまで上がっているのか
・家を「使う人」(世帯)はこの先どうなるのか
・地価が上がっていると聞くのに、なぜ売りにくい家があるのか
・なぜ「早く動いた人ほど選択肢が多い」と言えるのか
総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、2023年10月時点の空き家は約900万戸。住宅全体に占める割合(空き家率)は13.8%で、どちらも過去最高です。
1993年は448万戸、空き家率9.8%でした。30年でほぼ2倍に増えたことになります。
このうち、賃貸用・売却用・別荘などではない「使う予定のない空き家」は385万戸あり、5年前より37万戸増えています。実家が空き家になるケースの多くは、この分類に入ります。

家を買ったり借りたりするのは、「人」ではなく「世帯」です。日本の人口はすでに減っていますが、一人暮らしが増えたおかげで、世帯数はこれまで増え続けてきました。
ところが、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、世帯数は2030年の約5,773万世帯をピークに減っていく見込みです。2050年には約5,261万世帯と、2030年より約512万世帯少なくなると予測されています。
つまり、これから先は「家を必要とする世帯」が少しずつ減っていく時代に入ります。家を手放したい人にとっては、買い手・借り手の数が減っていく、ということです。

買い手が減る一方で、手放される家は増えやすくなります。
国土交通省の「令和6年空き家所有者実態調査」では、空き家の57.9%が相続で取得されたもので、空き家になったきっかけの58.3%が所有者の「死亡」でした。空き家の多くは、相続をきっかけに生まれています。
そして、亡くなる方の数はまだ増えていきます。2024年の死亡数は約160万5千人。国立社会保障・人口問題研究所の推計をもとにした資料では、死亡数は2040年ごろまで増え続け、ピーク時は年約170万人になると見込まれています。
相続される家が増えれば、市場に出る中古住宅や空き家も増えやすくなります。「買い手は減り、売り手は増える」。これが、これからの住宅市場の大きな流れです。
「最近は地価が上がっているから、急がなくても大丈夫では?」と思う方もいるかもしれません。
たしかに、国土交通省の「令和8年地価公示」(2026年1月1日時点)では、全国の住宅地の平均は5年連続で上昇しました。
ただし、中身を見ると差がはっきりしています。住宅地の1年間の変動率は、東京圏が+4.5%なのに対し、地方圏のうち札幌・仙台・広島・福岡を除く「その他の地域」は+0.6%にとどまります。
さらに地点ごとに見ると、三大都市圏の住宅地で下落したのは7.3%だけですが、地方圏では34.2%、およそ3地点に1地点が下がっています。住宅地の平均が下落した県も12県あり、徳島・和歌山・鹿児島・高知・愛媛など、空き家率が約2割と高い県も含まれます。
「全国では上昇」というニュースの裏で、場所によっては今も値下がりが続いている。これが今の市場の姿です。見方を変えれば、地方圏でも全体として上昇基調が続いている今は、比較的動きやすい時期とも言えます。

家は持っている期間が長ければ傷む。準備をしない家は空き家のままになりやすい
空き家は、時間がたつほど建物の状態が悪くなりやすいものです。
同じ国土交通省の調査では、相続された空き家の73.2%が1980年以前に建てられた住宅で、71.8%に何らかの腐朽・破損がありました(構造上の不具合21.2%、全体的な腐朽・破損3.5%、部分的な腐朽・破損47.1%)。
売却や賃貸のときに困ることの1位は「住宅の傷み」です。傷みが進むほど、買い手がつきにくくなったり、解体費を見込んで値段を下げたりする必要が出てきます。
もうひとつ注目したいのが、相続前の準備の差です。相続前に家族で話し合うなどの対策をしていなかった家は、相続後に「何もせず空き家のまま」所有している割合が45.1%。対策をしていた家(29.4%)の約1.5倍でした。
ちなみに、相続前に対策をしていた世帯は23.0%。その内容で最も多かったのは、特別な手続きではなく「被相続人との話し合い」(16.7%)です。

「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」には期限があります。
相続した家(1981年5月31日以前に建てられたものなど、条件あり)を売るとき、条件を満たせば売却益から最大3,000万円を差し引けます(相続人が3人以上なら1人あたり2,000万円)。ただし、売る日が「相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」で、かつ現行制度では「2027年(令和9年)12月31日まで」であることが必要です。
延長されるかどうかは、今後の税制改正しだいです。「いつか使えばいい」と思っていると、気づいたときには期限が過ぎていた、ということも起こりえます。
ここまでのデータをまとめると、次のようになります。
・空き家は過去最多・空き家率は過去最高
・家を使う世帯は2030年をピークに減る見込み(予測)
・相続をきっかけに、手放される家は増えやすい
・地方の住宅地は、上昇局面でも約3地点に1地点が下落
・家は時間とともに傷み、準備がないと空き家のままになりやすい
もちろん、売る・貸す・住む・残すのどれが正解かは、家族や家の状況によって違います。思い出のある家を急いで手放す必要はありません。
ただ、「決めないまま時間が過ぎる」ことにも、維持費・建物の傷み・市場の変化・制度の期限といった目に見えにくいコストがあります。早く動くほど、選べる道は多く残ります。
今日からできることを4つ挙げておきます。
・家族で「この家をこの先どうしたいか」を一度話してみる
・登記簿や固定資産税の通知書で、名義・面積・評価額を確認する
・近所の売り出し価格や地価公示の地点を調べ、相場の目安を知る
・市区町村の空き家相談窓口や不動産会社に、売る・貸すの可能性を聞いてみる
次回も、空き家のこれからを考えていきます。
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■出典
・総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」(住宅数概数集計 2024年4月30日、基本集計 2024年9月25日)
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/tyousake.html
・国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」令和6(2024)年推計(2024年4月12日)
https://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2024/t-page.asp
・国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」表7-12 家族類型別一般世帯数の将来推計
https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Data/Popular2026/T07-12.files/sheet001.htm
・国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査」結果のポイント(2025年8月29日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/house02_hh_000233.html
・国土交通省「令和8年地価公示」(2026年3月17日)
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/tochi_fudousan_kensetsugyo_fr4_000001_00324.html
・総務省「全国の地価動向【令和8年地価公示】」(地方財政審議会資料、国土交通省資料を基に作成)
https://www.soumu.go.jp/main_content/001091632.pdf
・厚生労働省「令和7年版 厚生労働白書」資料編(我が国の人口動態 令和6年概数)
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/25-2/dl/zentai.pdf
・大阪府資料(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」出生中位・死亡中位推計に基づく死亡数の見通し)
https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/15641/tuikasiryou1.pdf
・千葉市「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除のご案内」
https://www.city.chiba.jp/toshi/toshi/anzen/documents/3000.pdf
・北九州市「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/contents/28100011.html
※空き家率は、総住宅数に占める空き家(賃貸用・売却用・別荘などを含む)の割合です。2023年の数値は確報で小数点以下がわずかに異なる場合があります。
※世帯数は一般世帯数です。2025年以降は推計(予測)で、2020年は国勢調査に基づく基準値です。死亡数の2040年ごろのピークも推計に基づく見通しです。
※地価の変動率は、前年から継続して調査している地点の単純平均です。地点の上昇・横ばい・下落の割合も継続地点で集計したものです。「空き家率が約2割の県」は、令和5年住宅・土地統計調査で空き家率が20%前後の県を指します。
※相続空き家の建築時期・腐朽破損・相続前対策の数値は、国土交通省調査のうち相続で取得した空き家についての集計です。
※3,000万円特別控除には、建築時期、耐震基準の適合または解体、市区町村が発行する確認書の提出など、ほかにも条件があります。適用できるかは税務署や税理士にご確認ください。制度の期限は2026年10月時点の内容です。
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