
以前に空き家を持っているだけで年に約23万〜39万円かかる、という維持費の試算を紹介しました。今回はその続きで、「せっかくなら貸して家賃を得よう」と考えたときの話です。
実家を貸そうと不動産会社に相談すると、「このままでは借り手がつきにくいので、水回りと内装を直しましょう」と言われることがあります。たしかに古い家は直さないと貸しにくいのですが、直すほどお金がかかり、そのお金を家賃で取り戻すには時間がかかります。
・空き家はどのくらい傷んでいて、なぜ「直したくなる」のか
・リフォーム費用は、どのくらい予算を超えやすいのか
・家賃で取り戻すには何年かかるのか、上限をどう決めればよいか
国土交通省が2025年8月に公表した「令和6年空き家所有者実態調査」によると、空き家の約6割(63.2%)は1980年以前に建てられた家です。また、約3分の2(65.8%)に、構造上の不具合や、外観・室内の腐朽・破損(傷みや壊れ)が見られます。
同じ調査で、賃貸や売却を考えている人に課題を聞くと、1位は「住宅の傷み」(43.3%)でした。「設備や建具の古さ」(34.0%)、「リフォーム費用」(21.4%)も上位に入っています。

「傷んでいるから貸せない。だから直そう」と考えるのは自然な流れです。問題は、その「直す」にいくらかけるかです。
住宅リフォーム推進協議会が2026年2月に公表した調査では、過去3年以内に自宅をリフォームした人の、検討時の予算は平均310万円。実際にかかった費用は平均405万円で、予算の約1.3倍でした(中央値は210万円)。
予算を上回った人にその理由を聞くと、「設備を当初よりグレードアップした」(47.4%)、「予定よりリフォーム箇所が増えた」(41.9%)、「想定外の工事が必要になった(躯体や構造部分の補修など)」(22.6%)が並びます。

これは自宅のリフォームについての調査です。ただ、長く人が住んでいない古い家では、床や壁をはがしてみたら傷みが見つかった、ということが起こりやすくなります。「せっかく直すなら、ここも」と範囲が広がりやすいのも、自宅の場合と同じです。
では、かけた費用を家賃で取り戻すには何年かかるのでしょうか。次の前提で試算しました。
・家賃:月4万円と月6万円の2通り(月6万円は、総務省の調査による一戸建の民営借家の平均家賃61,583円を丸めた目安)
・入居率:90%(年に1か月ほどは空室と仮定)
・経費:管理委託料、保険、固定資産税、小さな修繕などで、家賃収入の20%が出ていくと仮定
この前提だと、1年間の手取りは「月額家賃 × 8.64か月分」になります。月4万円なら年約35万円、月6万円なら年約52万円です。

結果は次のとおりです。
・150万円かけた場合:約3〜4年
・300万円かけた場合:約6〜9年
・500万円かけた場合:約10〜15年
・800万円かけた場合:約15〜23年
500万円をかけると、月6万円で貸せても約10年、月4万円なら約15年かかります。その間に入居者が入れ替われば、また空室や修繕が発生します。税金やローンの金利、将来の屋根・外壁などの大きな修繕は、この試算に含めていません。
ご自身の家に当てはめるときは、次の式を使ってください。
たとえば、月4万円で貸せる家を10年で回収したいなら、上限は約346万円です。5年で回収したいなら約173万円になります。
ここまでの数字から考えると、費用をかけすぎてしまう流れには、いくつかの共通点がありそうです(統計で順位がついているわけではありません)。
・地域の家賃相場や、借り手がいるかを確かめる前に、工事の内容を決めてしまう
・見積もりの途中で、設備のグレードや工事の範囲が広がっていく
・古い家で、工事を始めてから構造部分の補修が見つかり、予備のお金がない
・直したのに借り手が見つからず、家賃を下げることになる
最後の点については、空き家所有者実態調査にヒントがあります。賃貸・売却したい人に「借り手・買い手が見つからない場合はどうするか」を聞くと、「家賃や価格を引き下げる」が45.5%で最も多く、「リフォームなどで住宅の魅力を高める」は6.4%にとどまりました。家賃を下げれば、そのぶん回収年数は延びます。
同じ調査では、1年の間に空き家でなくなった住宅について、そのために何をしたかも聞いています。
「特に何もしていない」が38.7%で最も多く、「不動産事業者に借り手や買い手を探してもらった」が29.2%。「リフォームした」は19.3%でした。つまり、約8割はリフォームをせずに空き家を解消しています。

ここには売却や賃貸だけでなく、取り壊しや、所有者・親族が住むようになったケースも含まれます。それでも、「まず直さないと何も始まらない」とは限らないことが分かります。
・現状のまま売る(不動産会社の買取や、古家付き土地としての売却を含む)
・国土交通省が普及を進めている「DIY型賃貸借」を使う。家主は修繕をせず、相場より安い家賃で貸し、借り手が自分の費用で改修する貸し方です
・自治体の空き家バンクに登録する
どれが正解かは、家の状態や立地、家族の考え方によって違います。ただ、決めずに置いておけば、前回の記事で見たように維持費は毎年かかり続け、家の傷みも進みます。
リフォームを考えるなら、工事の見積もりより先に、使ってよい金額の上限を決めておくと、かけすぎを防ぎやすくなります。今日からできることを挙げます。
・不動産会社やポータルサイトで、近所の似た家の家賃相場を調べる
・「月額家賃 × 8.64 × 回収したい年数」で、リフォーム費用の上限を出してみる
・同時に「直さずに売る場合」の査定も取り、貸す場合と比べる
・工事をするなら見積もりは複数社から取り、自治体の改修補助や空き家バンクがないかも確認する
直してから考えるのではなく、数字を比べてから決める。それだけで、取り戻せないリフォームはかなり避けられます。
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■出典
・国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査」(2025年8月29日公表)
https://www.mlit.go.jp/report/press/house02_hh_000233.html
(報告書:https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001907491.pdf)
・一般社団法人住宅リフォーム推進協議会「住宅リフォームに関する消費者・事業者に関する実態調査」(2026年2月公表、2025年度調査)
https://j-reform.com/pdf/info260226.pdf
・総務省「令和5年住宅・土地統計調査」住宅及び世帯に関する基本集計 表130-2(民営借家〈専用住宅〉の1か月当たり家賃)
https://www.e-stat.go.jp/
・国土交通省「DIY型賃貸借」の取り組み資料
https://www.mlit.go.jp/common/001127687.pdf
※空き家の建築時期・腐朽破損の割合は、令和6年空き家所有者実態調査の空き家全体(建築時期の「不明」を含む)に占める割合です。腐朽・破損の割合は「構造上の不具合が生じていた」「外観または室内に全体的に腐朽・破損があった」「部分的に腐朽・破損があった」の合計です。
※賃貸・売却する上での課題、見つからない場合の対応は、今後5年程度のうちに賃貸または売却する意向がある世帯への質問です(複数回答)。
※空き家解消のために行ったことは、2023年10月1日から2024年12月1日までに空き家でなくなった住宅についての質問です(複数回答)。
※リフォーム費用の予算と実費は、過去3年以内に自分の住まいをリフォームした20歳以上の人へのインターネット調査で、空き家に限ったものではありません。実費は補助金を含みます。
※回収年数は、入居率90%・経費率20%を仮定した試算です。家賃の目安に使った総務省の平均家賃は、現在人が住んでいる一戸建の民営借家の平均で、古い空き家を貸す場合の家賃は地域や状態によって大きく変わります。ご自身の家の家賃相場に置き換えてお使いください。
※賃貸に出すと、貸主として修繕の責任を負うほか、収入によっては確定申告が必要です。具体的な判断は、不動産会社・税理士・自治体の空き家相談窓口などにご相談ください。